信州ベスト紀行セレクション
高遠町にて(8)
Backward
|
Forward
遠照寺 / 長野県伊那市高遠町
山上の楽土〜牡丹に包まれて
前回、牡丹寺で知られる遠照寺を訪れたのは2015年6月のことであった。 その時のことは知的冒険エッセイ
第876回
「遥かなり絵島〜山上の楽土を夢見て」 に詳しい。
今回の訪れはそれより半月ばかり早かったが、すでに開花の盛りは過ぎていた。 今年の折節はなにもかも早いようである。
前回と同じく伊那高遠の奥山に向かう道すがら江戸大奥女中の絵島のことを思った。 絵島が背負った人生は過酷ではあったが、こうして季節になれば墓所は牡丹に包まれ、訪れる人々から絵島様と慕われる今の境遇は、思ってもみなかった 「ささやかな僥倖」 のひとつなのではあるまいか。
本堂の裏にたたずむ墓石には、穏やかな昼下がりの陽射しが落ち、あたりはしんとしている。 墓石に並んで立つ小さな歌碑の石面には、以下の歌が刻まれていた。
浮き世には また帰らめや 武蔵野の 月の光の かげもはづかし
2018.05
|
セレクションインデックス
|
copyright © Squarenet