マスターは遠ざかり、私はタバコを取り出し火をつける。 空中に煙を吐き出しながらふと考える。
このレストランの世界はどうして私の回りに存在しているのか? この宇宙はどうして発生したのか? おそらく、このレストランは私が訪れる前にも長い間ここに存在してきたのであり、マスターの人生と生活が存在し、それをとりまくさまざまなお客が存在してきたのである。
私はそれを知る由もない。 私にとってみればこの世界は、このレストランのドアを開けるまでは存在しなかった。 もちろん私が入ることにおいては、他のレストランでもよかったことである。
「たまたま」スパゲテイが食べたくなり、「たまたま」目についたレストランに入ったのであるから。 きっともう少し車を走らせて入ったレストランであれば、また違った世界であったであろう。
美人のウエイトレスが注文をとりに来たかもしれない。 またぞろ同じマスターが登場することはないであろう。
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