未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
有限の時間内で真実は決定できない
1994年、米国のサンタフェ研究所で「科学的知識の限界」をテーマにした研究集会が開催された。集会は「現実世界は私たちが理解するには複雑すぎるのであろうか?」という命題から始められた。
クルト・ゲーデルの不完全性定理では、ある種の数学的記述は常に不完全だとされている。であれば現実世界の諸現象は常に完全には説明しきれない。命題を還元すれば「有限の時間内ではその命題が真実であるのか真実でないのかを決定することはできない」ということである。
第606回
「永遠と無限の存在証明」、
第607回
「ポアンカレ循環疑義」ではこの「有限の時間内」という思考の前提について書いている。
要旨を述べれば、フランスの数物理学者、アンリ・ポアンカレ(1854年〜1912年)が証明した「ポアンカレ循環」の帰結は「もし永遠の時間の存在を想定すれば、あらゆる物事は出発点に回帰し、同じ循環を繰返すことになる」というものだが、誰も永遠の時間など経験していないのであるから、その帰結は「単なる数学的概念であって、その存在を証明したものではない」という疑義である。
もし疑義するところが正しければ「ポアンカレ循環が意味する人間生活にかかわる哲学的有義性は消失」してしまう。つまり、「何のための科学で、誰のための科学か?」という根本義である。人間は永遠の時間では生きられないのである。
2017.02.27
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