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未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事

知的冒険エッセイ / 時空の旅
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フォッサマグナの断章(2)
 「フォッサマグナの断章(1)(第839回)」を書いたのは2014年11月.30日のことである。それはフォッサマグナの西端線を形成する糸魚川静岡構造線の神城活断層を震源として2014年11月22日に発生した長野県北部地震に促されて起稿したものである。その後、2016年4月14日、熊本地震が発生、震源域として中央構造線と呼ばれる日本列島を東西に縦断する大断層がクローズアップされたのは衆知のごとくである。
 大断層と規定する場合、「断層の長さ」と「断層面のずれ量」の2つの観点が考慮される。中央構造線はそのどちらをとっても文字通り日本最大級の断層である。断層の長さでは、東端は長野県諏訪市の杖突峠から始まり、長野県南部を経て、静岡県に抜け、紀伊、四国を貫いて、西端は九州にまで達する。総延長は1000キロを超える。断層面のずれ量においては20キロを超えるとされている。
 通常、断層付近は岩石が破砕され浸食されることで谷地形となって地表に断層が露頭することは少ないが、長野県内にはこの中央構造線をまじかに観察できる露頭がいくつかある。伊那市長谷村にある「溝口露頭」はこの好例である。また溝口露頭から南に分杭峠を越えた位置に北川露頭がある。北川露頭については前記「フォッサマグナの断章(1)」を参照。
 溝口露頭は伊那市高遠から秋葉街道を分け入った長谷村の地、南北に細長く延びた美和ダム湖の中央付近東側の湖岸にある。そこに中央構造線公園と呼ばれる公園があり、その公園内に溝口露頭があることは「つい先日」知ったことである。その湖岸から対岸に向かって架かっている赤い吊り橋を撮影するために訪れたこともあったのであるが、ついぞ気づくことはなかったのである。
 だが2011年3月11日に発生した東北大震災後、4ヶ月ほどして訪れた美和ダム湖の印象を「信州つれづれ紀行(第288回)」で以下のように書いている。
 伊那から高遠を経て長谷に向かって車を走らせると右手に、高さ69.1m重力式コンクリートダム「美和ダム」が見えてくる。美和ダム湖はエメラルドグリーンの満々たる水量を蓄えて静かに横たわっている。湖周辺には多くの動植物が見られ、特に昆虫類は2,000種近くが生息しているという。ダム湖にはかなりの堆砂量があるため、上流に貯砂ダムを建設、洪水時には砂の混ざった水がダム湖へ流入しないよう分派堰ゲートから、バイパストンネルを通って、美和ダムの下流に流すようになっている。美和ダムの堤体を見上げる位置に、ローマの遺跡のような形をしたその排水口が黒い大きな口を開けてその時を待っている。 ダム湖をさらに遡上すると「ゼロ磁場」のパワースポットで今話題を集めている「分杭峠」を経て、「大鹿歌舞伎」で有名な大鹿村に至る。日本列島を縦断する「中央構造線」が走るこの地域は地球物理学的にみても特異な空間である。3.11東北大震災以後、この列島の地中奥深くでは、何か得たいのしれない力がうごめいているようで気がかりだが、願わくはその力がうまく拡散して、ことなきを得ることである。
 今文面を読み返すとそれは共時性のごとくの予感で書かれたもののようにも思われる。あるいはその共時性的な予感が、その後の太古地質構造に向けた探求の源泉であったのかもしれない。
 以下の掲載写真は溝口露頭を南側から撮ったものである。向かって右側の黒い部分は西南日本外帯に属す三波川帯の結晶片岩類(石墨変岩)であり、およそ8000万〜7000万年前のものである。左側の茶色い部分は西南日本内帯の岩石であり、およそ1億年前のものである。通常は中央構造線の内帯側には領家変成岩類が分布しているが、ここでは三波川帯の岩石と領家帯の岩石の間に貫入岩が挟まっている。この貫入岩は内帯側の岩石で、約1500万年前に入り込んだマグマによって形成されたものであるとされている。これらの岩石は種類も生まれた場所も異なっている。互いに遠く離れていた岩石がいつどのようにして隣り合わせになったのかはいまだに解明されていない。
中央構造線 溝口露頭 (筆者撮影)
 溝口露頭は中央構造線の東端部に位置し、それから1000キロ離れた西端部は今も余震が続く熊本である。露頭を眺めているうちに底知れない地球の胎動を垣間見たような畏怖を覚えた。想像を絶するような2つの巨大な岩盤がこの断層面を境にして強大な力で互いにせめぎあうことで「日本列島の背骨」が構成されているのである。いつの日かその力のバランスが崩れたとき如何なることになるのかは予測不能である。小松左京が描いた「日本沈没」のイメージがリアリティをもって脳裏に浮かんできた。
「フォッサマグナの断章(1)」(第0839回
「フォッサマグナの断章(3)」(第1621回
「フォッサマグナの断章(4)」(第1622回

2016.05.26


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