Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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繰り返し見る映画とは
 繰り返し読む本があるように何度も繰り返し見る映画がある。理由は見る度に新たな発見があるとも、演じた名優の演技力に感動するとも、その他あれこれあげることはできるが、最も大きな理由は「描かれたその世界が好きだから」に尽きる。
 例えば「阿弥陀堂だより」であり、「大鹿村騒動記」である。これらはごく限られた狭い片隅の世界が舞台となっている。阿弥陀堂だよりは北信濃に位置する山里の集落であり、大鹿村騒動記は南アルプスの山塊に囲まれた落人伝説が語り継がれる山村である。いずれも文明から隔絶されていて入ってくる者も出ていく者もいないような閉ざされた世界である。その中で繰り広げられるおもしろくもやがて哀しい人間ドラマが美しい自然を背景にして展開する。それは近代社会が失ってしまった古く懐かしい原風景である。その原風景に回帰したいがゆえに、そこに生きる人々の素朴な人間性に魅了されるがゆえに、私は何度も繰り返し見るのであろう。
 宇宙がフラクタル構造(入れ子構造)を成すとは Pairpole宇宙モデル が語るところである。細部は全体であり全体は細部である。細部には全体が含まれ全体には細部が含まれている。よしんば地球上をくまなく探してみても「阿弥陀堂だよりの世界」や「大鹿村騒動記の世界」以上に素晴らしい世界が見つかる保証はどこにもない。
 今や、世界はグローバル化されボーダーレスとなり、人々は激しく行き交い、社会経済の成長が叫ばれない日はないが、中央の大きな世界がみばえがしておもしろく、小さな片隅の世界がみすぼらしくつまらないとする理由はどこにもない。巨大スペクタクルを描いたアメリカ映画もいいが、小さな世界を丁寧に描いた日本映画もまたそれに勝るとも劣らないのである。
信州つれづれ紀行より

2015.05.25


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