Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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ワームホール(1)〜イバラードの奇妙な店
 第960回 〜第965回で連載した「新たな地平を求めて」では、行き詰まった世界を打開する「新たな世界の可能性」を探求した。ここではその新世界を拓くより具体的な「ワームホールの可能性」について本エッセイで掲載された論考のプロットをもとに再考する。
 ワームホールとは時空のトンネルのことである。このトンネルを通ると遥か何億光年も離れた空間へも一瞬で行くことができるという。ホールという言葉からするとトンネルよりは穴、言うなれば「入り口」と訳すことが相応しいのかもしれない。 曰く、「異次元空間(別世界)への入り口」である。
 第424回「イバラードの奇妙な店」では、ひとつの象徴的なワームホールの構造が提示されている。再考の巻頭におくに相応しい内容と示唆に満ちている。
イバラードの奇妙な店
 画家井上直久氏の絵本「イバラードの旅」の中に奇妙な店が登場する。(井上直久氏とは、かつて氏が松本市を訪れた際、この奇妙な店のことについて話したことがある)
 ・・・ イバラートとは井上氏の意識世界の中にある理想郷であり ・・ そのイバラードの市場に、その奇妙な店はある ・・ 入り口には「夜空屋(あなたが探している場所はこちらです、どうぞお入り下さい)」という看板がさげられている ・・ その入り口を入ってみると入り口の向こう側には広い草原が広がっている ・・ 振り返って、いまくぐった入り口を見ると、今度は逆にイバラードの市場が、その入り口の向こう側に広がっている ・・ 入り口には「市場屋(あなたの探している物はこちらにあります、どうぞお入りください)」という看板がさげられている ・・・
 我々は常日頃、「裏と表」という言葉を口にするが、その裏と表の構造をしかと理解し得た人が、どのくらいいるのであろうか?
 井上氏が提示する裏表の構造とは、表の世界の「外側」に裏の世界が在り、裏の世界の「外側」に表の世界が在るような構造である。一般的に我々が考える裏表とは、一枚の紙の表裏のような構造であるが、井上氏が提示する裏表の世界は、ちょうどゴムボールの内側と外側の構造に近い。ただ異なるのはそのゴムボールの曲率が内側、外側ともに内側に曲がっていることである。そのようなゴムボールを図に描くことは難しいが、そのゴムボールが天文学的に大きいことを想定すれば、非ユークリッド幾何学(つまり、平行線は交わるという幾何学)が適用されるから、そのようなゴムボールも在りうる。つまり、ゴムボールの内側も外側も、ともに同じ内側に曲がっているようなゴムボールである。
 この構造をわかりやすく述べれば、壁に取り付けられた鏡を、その入り口(門)であると想起すればよい。鏡の門では実際には出入りはできないが、もしその鏡の門から自由に出入りできると考えれば、井上氏が提示したイバラードの奇妙な店の入り口(門)と同じ構造である。
 このイバラードの門における、直観的インスピレーションは象徴的であり、また暗示的示唆に富んでいる。その門とは、言うなれば「生と死の門」であり ・・ 「有と無の門」であり ・・ 「男と女の門」であり ・・ 「精神と物質の門」であり ・・ あらゆる「Pairpoleの門」の構造である。
 そしてはたして ・・ 私は ・・ あなたは ・・ いったいその門のどちら側の世界にいるのであろうか?
 裏と表の構造として通常は1枚の紙の裏表を思い描くが、表の世界の「外側」に裏の世界が在り、裏の世界の「外側」に表の世界が在るような裏と表の構造は矛盾していて思い描くに努力を要する。だが2つの世界を繋ぐワームホールを出入りする人にとってみればそれは何ら違和感のない当然の構造として感じられるであろう。
 また注目すべきは2つの入り口に掲げられた「夜空屋 あなたが “探している場所” はこちらです」、「市場屋 あなたの “探している物” はこちらにあります」という2つの看板表示である。夜空屋にあるものは「あなたが探している場所」、つまり空間であり、市場屋にあるものとは「あなたが探している物」、つまり物質である。人が幸福のために探しているものが空間と物質であるとする指摘は暗示的である。
 例えて言えば、いくら快適な世界であっても好きな貴方がいないような世界には生きていたくないとする感懐のようなものである。世界とは空間であり、貴方とは物質である。つまり、快適な世界も好きな貴方がいてこその理想郷というわけである。
ワームホール(2)〜意識と光速 / 第986回

2016.12.21

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