未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知のワンダーランドをゆく〜知的冒険エッセイから
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売れないのは聴きたくないから
「売れないのは聴きたくないから」とは歌手、前川清が人気凋落し売れなくなった時、相談した「欽ちゃん」こと萩本欽一が、前川に言った言葉である。その後、欽ちゃんの勧めで「お笑い番組」に出演した前川は、独特の「ボケ」た演技で好評を博した。時はめぐり、前川の演歌を「聴きたくなった」聴衆は、再び盛大な拍手で歌手、前川清をコンサートステージに迎えたのである。
日銀がいくら金利を下げても借りる人がいないとは、つまるところ「借りても使い道がないから」ということになる。アベノミクスはこの状況を変えるべく懸命の努力を続けているが、奏功しているのは未曾有の金融緩和による円安誘導のみのように観える。その円安誘導も日本の将来において是なのか非なのか現在のところわからない。
次なる政策は「成長戦略」だという。成長戦略を還元すれば「商品を売ろう」ということになるが、戦略の多くが各種の補助金政策に偏っていることが気にかかる。冒頭の欽ちゃんの言葉ではないが「売れないのは必要ないから」という視点を見失ってはならない。
必要がない商品を、いくら売ろうとしても売れるものではない。時がめぐり、その商品が必要とされるまで待て、と欽ちゃんは断言したのである。そしてなにより、欽ちゃんが優れていたのは、前川の隠れた才能(ボケ)を見抜き、時がめぐり来るまでの間をつなぐ「仕事を創出させた」ことである。ここにおいて、欽ちゃんはやはり稀有なる天才芸人なのである。
文 /
柳沢 健
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