Forward　今日のワンダーランド　Backward

　先延ばしとは突き詰めれば時間を延ばすことであるが、時間を延ばすことで発生する問題は先に延ばす物事によって等価ではない。経済対策を先延ばしすることと、原子炉事故の汚染水対策を先延ばしすることを同等に考えることはできない。前者は社会学の問題であり、後者は物理学の問題である。これを混同してはならない。従って汚染水対策において政府が前面に立とうが立つまいが、問題の解決には直接的に影響しない。必要なことは科学技術的に有効な対策を実行することである。

　それは１）としてメルトダウンした原子炉を数十年以上に渡って冷却するに足る冷却水循環型の恒久的装置を設置することであり、２）として原子炉設備に流入し続けている外部流入水をいち早く遮断することである。

　言ってみれば簡単なことである。だが科学技術に王道はない。時の大統領が「保証する」と言おうが、大富豪が「だいじょうぶ」と言おうが問題はなくならない。道を拓くのは情熱と志を抱いた科学技術者たちの不撓不屈の努力のみである。もしもかくなる物理学的現象に対して社会学的対応をもってして先延ばしを続けるならば、東北の被災地は復興するどころか無数の汚染水タンクで占領されてしまうことになる。

文 / 柳沢　健