Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知のワンダーランドをゆく〜知的冒険エッセイから
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相即不離
 世捨て人とは「世を捨てた人」なのか? あるいは「世から捨てられた人」なのか? 前者は主観を述べたものであり、後者は客観を述べたものである。前者は物質や自然は精神によって規定されて初めて存在しうるとする観念論の根拠であり、後者は物質のみが真の実在で精神や意識はその派生物とする唯物論の根拠である。前者は認識論の立場を擁護し、後者は実在論の立場を擁護する。話はかわって、信州長野県には「鬼無里(きなさ)」という山深い里がある。鬼無里とは「鬼などいない桃源郷のような里」という意味なのか? あるいは「鬼でさえ住めないほどに過酷な里」という意味なのか?
 これらの対峙は紙の表裏のごとく相即不離の関係を成して、互いに補完しあっている。それはまたこの世の内蔵秩序である対称性の断面風景でもある。
※)鬼無里伝説
 その昔、この地には京の都から配流された紅葉という美しく高貴な女性がいた。 里長はなにかと京を懐かしむ紅葉の心を察してこの地に加茂川、東京、西京、高尾、二条、四条などいずれも平安の都から名を取った地名をおき、紅葉をなぐさめた。しかし紅葉は、やがて悪者達に担がれて盗賊の首領となり荒倉山に移り住み、旅人を襲って豪勢な暮らしをするようになった。人々は紅葉を鬼女と呼ぶようになり、そのうわさは遠く京の都にまで知れ渡った。朝廷は平維盛に鬼女征伐を命じ、苦戦の末、ついに紅葉狩りを果たしたといわれている。それまで水無瀬と称していたこの地は、以降鬼の無い里、すなわち鬼無里と呼ばれるようになったという。
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