過去時空から心理学を創始したフロイトと未来時空から心理学を創始したユングの構図を、物理学にあてはめると相対論を創始したアインシュタインと量子論を創始したボーアの対比構図に相似する。アインシュタインは多分にフロイト的であり、ボーアは多分にユング的である。フロイトとユングが互いに相手を否定したと同様、アインシュタインとボーアもまた互いに相手を否定した。アインシュタインは「神はサイコロを振らない」という有名な言葉でボーアを批難したが、ボーアの答えは「神に向かってとやかく指図するのはやめなさい」というものであった。「月は眺めているときには在るが、眺めていないときに在るかどうかはわからない」などというボーアの確率論的な量子論の考え方を審美的な自然観をもつアインシュタインは生涯に渡って受け入れることができなかった。同様にフロイトはユングの明るく開放的で未来性に富んだ心理学は受けいれがたく、ユングはフロイトの暗く閉鎖的で発展性がない心理学を肯定できなかったのである。心理学と物理学との連関はユングと量子論物理学者パウリとの間でなされた共時性(シンクロニシティ)についての応答や、2人で共著した「自然現象と心の構造」等が残っている。
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