Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知のワンダーランドをゆく〜知的冒険エッセイから
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時間とは何か?
 カトリック神学の祖、聖アウグスティヌス(354〜430)はその著書「告白録」の中で「世界(宇宙)の創造の前に神は何をしていたか」という疑問に取り組んでいる。
 「もしも神にすることがなくて 何もしていなかったのだとしたら いったいなぜ それまでずっと何もしていなかったのと同じように 何もしない状態を永久に続けなかったのか?」
 この疑問に答えをだすためにはまず「時間とは何であるか」を理解しなければならないと考えたアウグスティヌスは明瞭な分析を通して、「時間は何かの動きを通じてのみ定義できること、したがって世界よりも以前には時間は存在できない」という理解に至った。
 アウグスティヌスの最終結論とは以下のようなものであった。
 「世界は時間の中で創造されたのではなく 時間とともに創造されたのであって 世界よりも以前に時間があったのではない」 つまり、世界の創造の前に神が何をしていたのかを問うことは無意味であって、時間がなければ「そのとき」もまた存在しないのである。
 私が安曇野の中学校で行った講演「宇宙の構造とメカニズム」の中で子供たちに語った時間については講演録「物質が空間と時間を発生させる」に記載されていて、アウグスティヌスとよく似た論理構成をもっている。 以下の記述は講演後に寄せられた中学1年生のK君からの便り(抜粋)である。
 今日の、柳沢先生の講演は、とても興味深く、おもしろいものでした。特に、「宇宙の果てはどうなっているのか」「時間の始まりと終わりはいつなのか」という部分です。ぼくも何度かそのことについて考えてきました。でもそのたびにわけがわからなくなったり、怖くなったりしました。柳沢先生もそうだと聞き、みんなそうなるのだと感じました。そして、今まで考えられなかったことまで先生に教えてもらうことができました。それが、物体が増えることで、空間、そして時間が生まれるということです。このことにも感動しました。真っ暗な世界に1人でいる自分の数メートル前方に何か物体が現われるのが頭に浮かんできました。このイメージをずっと覚えていようと思いました。
 K君の思いは聖アウグスティヌスと等価同質の思いであり、私はその研ぎ澄まされた感受性にほとほと驚かされるとともに、未来を拓く科学者の素質をかいま見た気がした。日本の未来はそう暗くはないのである。
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