未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知のワンダーランドをゆく〜知的冒険エッセイから
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死に至る病
現代人は死に至る病に冒されている。 病名は物質文明繁栄に起因する「ぜいたく病」である。
物質文明が追求した利便性は人間が困難に立ち向かう意志力を低下させる。現代人は努力を怠り、「ものぐさ太郎」に逸しつつある。生活は豊かになったものの人生に対する姿勢は安逸に流れ、性急に結果のみを追い求める。
水は位置の高きから低きに流れ、熱は温度の高きから低きに流れることは宇宙の物理的法則である。同様に人間の生き方も困難から安逸に流れ、拘束から自由に流れ、禁欲から快楽に流れ、勤勉から堕落に流れ、緊張から怠慢に流れる。 これは宇宙の意識的法則である。
宇宙の物理的法則に反して水を低きから高きに流すためには物理的エネルギを加える必要がある。同様に意識的法則に反して人間が安逸から困難に、自由から拘束に、快楽から禁欲に、堕落から勤勉に、怠慢から緊張に向かうためには意識的エネルギの注入を必要とする。 通常、この意識的エネルギのことを意志力とか、精神力と呼ぶ。
現代人が冒されている「ぜいたく病」とは、この意識的エネルギが日々低下していく病である。そしてこの病状が悪化し、意識的エネルギが枯渇した時、人間は「魂の死」を迎えることになる。身だけが物理的エネルギで豚のように丸々と太った「豚死(頓死)」である。やがて世界の先進国においてはこの「ぜいたく病」の死亡率が癌やエイズを越える日が到来するであろう。
この病からの回復には、意識的エネルギ(意志力や精神力)を増強する以外に治療法がない。そのためには困難、拘束、禁欲、勤勉、緊張を自ら求め鍛錬することにより意識的エネルギを充実させなければならない。しかしながら、これらの治療法は現代人が最も忌み嫌うものばかりである。 言われるごとく「良薬は口に苦し」なのである。
多くの現代人の生活は、豚に恨みはないものの「豚の生活」である。今目指すは「狼の生活」である。 現代社会を考えれば、この豚と狼の比率は5:1ぐらいの比率ではなかろうか ・・? そして、豚の生活から狼の生活に転換できる人の数ともなれば1000人中、5人程度ではなかろうか ・・? 悲しいかな残りの995人は「豚死」を迎えることになる。
かくこのように、豊かな生活が「できるのに、しない」という狼の存在確率は、さながら絶滅寸前の「朱鷺」の生存確率のようである。
文 /
柳沢 健
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