Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知のワンダーランドをゆく〜知的冒険エッセイから
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永遠回帰と無限変身
 永遠回帰は哲学者ニーチェが人生最後に行き着いた思想である。
 我々は同じ人生を何度も何度も繰り返す。二度と経験したくないつらいことも、この上なき至福の時も何度も戻って来る。時間は円環を成し、未来に向かうと過去に至り、過去に向かうと未来に至る。物事は永遠に回帰し、やがて再び戻って来る。
 ニーチェは「時よ止まれ、この幸福よ永遠なれ」と一度でも願ったことがあれば、その人は永遠回帰を認めたのだと言う。円環を成す時間構造はそう願った至福の地点に未来に向かっても、過去に向かっても、ともに再び回帰して来るのである。
 このニーチェの永遠回帰の思想は人間の「時間の束縛」からの脱出であると、ニーチェ哲学の探究者であり、また数少ない私の盟友でもある関西学院大学、社会学部教授の宮原浩二郎氏は言う。さらに彼は「空間の束縛」からの脱出としての「無限変身」という思想の可能性を提示する。この二つの思想により、人間が決定的に拘束され束縛されている「時間」と「空間」からの離脱が可能であるとする。
 我々が「このようである」という存在性は、突きつめると「空間の束縛」に至る。私が日本にいて、私がこのような名前で、私がこのように生きていることとは、つまりは空間の束縛のなせる業である。
 もし私が他の何者かに変身できるとする。例えば哲学者ニーチェに、あるいは詩人ハイネに、また犬や猫に、そしてスーパーマンに ・・ 無限に変身できるとするならば、もはや空間の束縛は存在しない。
 ニーチェはイタリアの北部ポー河の畔、古都トリノで精神崩壊に至る。宮原教授はニーチェがこの精神崩壊に至る人生最後の過程で、彼自身の身をもって、この無限変身の状況に帰着していたのではないかと言う。もしそれが事実であるならば、彼は「永遠回帰思想で時間を突破」し、「無限変身思想(精神崩壊?)で空間を突破」したことになる。
 時間と空間の束縛から解放されることが人間にとって究極の自由、自立であるならば彼の哲学はその究極に行き着いたことになる。
 ニーチェの身に起きた精神崩壊という現象は、単なるニーチェ自身の遺伝子が背負った精神病理質に起因した現象であったのか ・・? はたまた妥協を許さない厳しい彼の哲学が至らしめた時間と空間の超越現象であったのか ・・? 永遠の時空の彼方にニーチェが去ってしまった今となっては、これもまた「永遠の謎」である。
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