未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知のワンダーランドをゆく〜知的冒険エッセイから
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絵はがき
絵はがきには、強い陽射しの中で、民族楽器を持って踊っている健康そうなアフリカ原住の人々の陽気で純朴な姿が写されていた。差出し地は、西アフリカ、マリ共和国の首都、バマコである。
彼とは松本のネオン街のはずれに位置するとあるスナックで知り合った。彼が有名国立大学で地球物理学を専攻していたことで、宇宙論や理論物理学などの「浮世離れした話」に興が乗り、何とはなしに、妙にうまがあったのである。
その後、そのスナックで幾たびか会った時々の話から、彼が大学卒業後、地質調査会社に勤め、世界各国を旅したこと、転じて政府ODE(政府開発援助)の仕事に従事し、後進国の援助に東奔西走したこと等を知った。言うなれば、彼はかって、俗に世に言う「エリート」であったわけである。
だが私と出会った時、彼は独り身であり、地元企業の通訳での契約社員として、細々と暮らしていた。何故に妻子と別れ、何故に松本に来たのかの理由を彼は語らなかったし、しいて私も聞くことはなかった。根は陽性ではあったが、ふとした時に見せる横顔には、孤高の影が射し、歌うカラオケの中に寂寥が漂っていたことを印象深く覚えている。
彼がきっといつかは、この松本の地を去って、再び旅立つであろうことを予感していたせいか、3ヶ月ほど前、突如として通訳の仕事を辞め、外国に旅立ったことを、店のママから聞かされても、そう驚くことはなかった。
そうして今日 ・・ 1通の絵はがきが、私に届いたのである。
はがきには、挨拶なく旅立ったことのわび、今、マリ国政府の立場で小規模水供給施設(水道)の施工管理をしていること、毎日30度〜35度の気温の中でも、やせもせず食欲旺盛で頑張っていること等が、強い筆跡でしるされていた。
私は松本からは遙かに遠く隔たった地球の裏側で頑張っている彼の姿を思い描いた。
そしてもう一度、絵はがきの写真を眺めたとき、原住民にまじって踊っている彼の姿をその中に確かに見たのである。
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「マリ共和国」
通称マリは、西アフリカの内陸国。首都はバマコ。モーリタニア、アルジェリア、ニジェール、ブルキナファソ、コートジボワール、ギニア、セネガルに囲まれている。国土の北側3分の1はサハラ砂漠の一部であり、残りの中南部も、ちょうど中心を流れるニジェール川沿岸だけが農耕地となっている以外は、乾燥地帯である。マリの名は、かつてこの地にあったマリ帝国の繁栄にあやかって名づけられた。マリとは、バンバラ語で「カバ」という意味で首都バマコにはカバの像がある。
ちなみにマリのGDPは世界第128位、1人当たり900ドル(約10万円)、人口密度は世界第67位、10人/ km2 である。
文 /
柳沢 健
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