かくして時代はめぐり、今や主演した裕次郎も、それを助けた三船敏郎もこの世にない。舞台となった隧道は観光用トンネルとして、トロリーバスが16分ほどで、扇沢駅から黒部ダム駅まで乗客を運んでくれ、ダム駅の長いトンネル階段を登って展望台にでると、おそろしいほどに「巨大な空間」が観光客を迎えてくれる。眼下に息づき、満々とたくわえた清水を激しく放水する黒四ダムの勇姿を眺めているうちに、いつしか失われてしまった「あの頃の気力」が体のなかから静かに甦ってきた。
気づくと、ダム駅に設置された拡声器から流れでた中島みゆきの「地上の星」が放水の音に混じって、とぎれとぎれに展望台まで聞こえてくる。そういえば、いつのNHK紅白であったか、彼女がこの黒部ダムの隧道の中から、生中継で、この「地上の星」を歌っていたことを思い出した。曰く、「崖の上のジュピター
水底のシリウス」 まさに「地上の星」がここにある。 黒部ダム(1)から続く
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