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ビジョンウィンドウから眺める信濃の四季

窓の向こうに世界が見える〜信州つれづれ紀行から
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須坂アートパーク / 長野県須坂市
環境にも老人にもやさしい町
 須坂市に所在する「世界の民俗人形博物館」、「須坂版画美術館・平塚運一版画美術館」、「歴史的建物園」からなるアートパークである。「世界の民俗人形博物館」は高田賢三、山本耀司など数多くのファッションデザイナーを育てた須坂市出身の小池千枝さんの90数ヵ国2千点以上もの民俗人形のコレクションを所蔵・展示する博物館であり、「須坂版画美術館」は須坂の版画家小林朝治の版画作品を、「平塚運一版画美術館」は国内各地で版画講習会を開催するなど版画芸術の啓蒙活動に尽くした平塚運一の代表作を展示している。「歴史的建物園」は江戸時代の武士、町人の住居であった武家長屋や油屋、藩医が開いた私塾、明治時代の製糸業の繁栄を偲ばせる長屋門等が建築当時と同様、忠実に復元されている。撮影した建物は旧牧家であり、江戸末期の町屋で、旧須坂市内に残された唯一の総茅葺き屋根のL字型の曲屋。街道に面していた表側(向かって左側)が「みせ」、その背後に板の間の台所、土間、味噌部屋が配置されている。
 各美術館と博物館を見たあと、取り囲む松林の中を歩いてみることにした。林の中にはマレットゴルフのコースが設けられており、気持ちよく風が吹き抜けていた。少し歩くと川岸に出て視界が広がった。褐色に染まった河原を物珍しげに眺めていると、背後から「鉄分が含まれていて赤いのだよ ・・ 魚は一匹もいないが ・・ 」と声がした。振り向くとマレットのクラブを手にした老人がたたずんでいた。どうやら一人でコースを回っている健脚を誇る「すこぶる元気」な老人のようであり、このあたりいったいのことを「とめどなく」話してくれた。穏やかに静まった碧空からは陽光が燦々と降り、風に乗って松籟がかそけき聞こえていた。どうやら須坂市は「環境にも老人にもやさしい町」のようであった。
文・撮影 / 柳沢 健
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