しかし 僕は かへって来た
おまへのほとりに 草にかくれた小川よ
またくりかへして おまへに言ふために
だがけふだって それはやさしいことなのだ と
手にさはる 雑草よ さわぐ雲よ
僕は 身をよこたへる
もう疲れと 眠りと
真昼の空の ふかい淵に ・・・・・
風はどこに? と 僕はたづねた そして 僕の心は? と
あのような問ひを いまはくりかへしはしないだらう−
しかし すぎてしまった日の 古い唄のやうに
うたったらいい 風よ 小川よ ひねもす
僕のそばで なぜまたここへかへって来た と
僕の耳に ささやく 甘い切ないしらべで
(以下、略)
− 立原道造 「風に寄せて」より −
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