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佐久平からの浅間山(4)
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佐久平からの浅間山 / 長野県北佐久郡御代田町
語り継がれる絶唱
 このカットは幾度か撮っている。 浅間山は信濃の自然風景の中でも代表的なものであろう。 佐久平からのその眺めは島崎藤村の詩情をかき立てたものである。 藤村の代表作である 「千曲川旅情の歌」 は明治38年(1905年)に発行された 「落梅集」 の冒頭に収められた 「小諸なる古城のほとり」 と後半の 「千曲川旅情の詩」 を藤村自身が後に自選藤村詩抄にて 「千曲川旅情の歌」 として合わせたものである。 その絶唱は人々の胸をとらえ時を貫いて語り継がれてゆくことであろう。
小諸なる古城のほとり
小諸なる古城のほとり 雲白く遊子悲しむ
緑なす ( はこべ ) は萌えず 若草も藉 ( し ) くによしなし
しろがねの衾 ( ふすま ) の岡辺 日に溶けて淡雪流る

あたゝかき光はあれど 野に満つる香 ( かをり ) も知らず
浅くのみ春は霞みて 麦の色わづかに青し
旅人の群はいくつか 畠中の道を急ぎぬ

暮れ行けば浅間も見えず 歌哀し佐久の草笛
千曲川いざよふ波の 岸近き宿にのぼりつ
濁り酒濁れる飲みて 草枕しばし慰む
千曲川旅情の詩
昨日またかくてありけり 今日もまたかくてありなむ
この命なにを齷齪(あくせく) 明日をのみ思ひわづらふ

いくたびか栄枯の夢の 消え残る谷に下りて
河波のいざよふ見れば 砂まじり水巻き帰る

嗚呼古城なにをか語り 岸の波なにをか答ふ
過(いに)し世を静かに思へ 百年(ももとせ)もきのふのごとし

千曲川柳霞みて 春浅く水流れたり
たゞひとり岩をめぐりて この岸に愁(うれひ)を繋(つな)ぐ

2018.12

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