Linear 信州ベスト紀行セレクション
富士見高原をゆく(4)
Linear
Backward | Forward
創造の森 望郷の丘 / 長野県諏訪郡富士見町
あの丘を越えて
 「彫刻公園」 展望台での撮影をおえたあと、同じ散策路をくだるのは芸がないと、迂回路を選び、少々気落ちした気分で歩いていた私の視界は突如として開かれ、眼下に富士見高原の全域が広がった。 それどころか、北方遠くに 「中央アルプス」 の山並が、正面に甲斐駒ヶ岳を前面にした 「南アルプス」 が、遮るものもなく天空に聳えている。 さらには南方遠くに 「富士山」 さえ雲上に顔を出していた。 そして今まさに、晩秋の八ヶ岳の空を渡ってきた日輪が、今日の仕事をおえ、西方に没しようとしている。
 絶景を前に呆然と立ちつくしていた私が、我に返って、その瞬間の定着を試みようとカメラをセットするまでには、しばし時の経過を必要とした。 撮影をおえてから、ようようあたりを見回し、立て標識を読むと 「望郷の丘」 とあった。 誰がつけたか、現代では死語のように古めかしくも、また懐かしい命名である。 シベリアに抑留された日本兵が、遠く祖国日本を思って涙した時代が甦ってくるようであった。 名優、鶴田浩二が歌った 「異国の丘」 が彷彿として思い浮かんだ。 戦後、日本は 「あの丘を越えて」 歩んで来たのである。 かくみれば 「望郷の丘」 からの眺めは、久しぶりに出逢った 「故国の風景」 でもあった。
2010.11
セレクションインデックス
copyright © Squarenet