大地はシベリアからの厳しい寒気の中で凍てついていた。狭間に訪れたぬけるような晴天の日、芥子坊主山と呼ばれる不可思議な名の山頂に立つ展望台に登った。西方に北アルプス連山が天際に聳えている。麓の低地は安曇野である。この地形を眺めると松本平が障壁としての北アルプスにいかにまもられているかが瞭然と納得させられる。寒波であろうが台風であろうがこの分厚い障壁が跳ね返し微塵もよせ付けないのである。かって地方紙に連載した安曇古代史仮説「安曇野の点と線」ではかかる桃源郷を私は「みすずかるまほろば」と名付けたが言い得て妙であったこと今にして確信する。
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