未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
信州つれづれ紀行 / 時空の旅
深妙寺 / 長野県伊那市西春近小出
あじさいと長姫と鈴虫
昨年訪れた深妙寺(
第438回
/ あじさいと石臼と犬房丸)を再び訪れたのは、そこで見た信州最大2500株200種類の紫陽花の風景に誘われてのことである。折しも列島を襲う豪雨の狭間では人影は少なかろうと思ったがそれでもこの風景が忘れられない人は多いとみえる。紫と緑の色彩は目に鮮やかで心まで洗われるようである。深妙寺の縁起は前回記載をお読みいただくとして、ここではその折に見落とした長姫堂について追記する。 以下の記載はその長姫堂に立つ「鈴虫の碑」の碑文である。
文政12年、京都の公家の姫君長姫が、乳母のお蝶と東国に旅立ちます。 お蝶は姫の旅路の慰めに鈴虫を携えました。 しかし、7歳の病弱な長姫は旅の途上春近郷であえなく亡くなられてしまいます。 里人は鈴虫の音を聞くたびに、この悲話を思うのでした。 長姫とお蝶の御霊をお祀りしているのが長姫堂です。
姫に付き添った乳母のお蝶は24歳。長姫亡きあと長姫供養のため観音経を読経していたが、「姫あってのお蝶」と思い詰め断食して亡くなったという。深妙寺では毎年9月12日長姫とお蝶を供養する法要を行い、その日は鈴虫の音を聞く集いも催されるという。不思議なことに野生の鈴虫が毎年この御堂の周りで鳴くのだという。
かなであふ 姫が形見の鈴虫の音は お蝶の歌と 人の聞くらん
寺域を巡ったあと本堂に拝礼、1800個からなる石臼を敷石に使った日本一の石臼庭園を眺めながら用意された長椅子に座って樹間を渡る風に身をゆだね想いをめぐらす。流れ去っていった時空がゆっくりと回帰してくるようであった。
2017.07
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