シュレジンガーが構築した波動方程式にはひとつの限界があった。 彼自身もこれには当初から気がついていた。
それはアインシュタインの特殊相対性理論の必要条件を満たしていなかったのである。 ディラックはこの欠点に取り組み相対論的方程式を書き上げた。
この方程式から反物質である陽電子の存在が浮かびあがってきた。 陽電子は電子と同じ質量をもっているがその電荷は反対になっている。
陽電子と電子が衝突すると対消滅を起こし同時に光がほとばしる。 この説はその後、カール・アンダーソンによって実験的に陽電子の存在が確認され実証された。
これは反物質の存在証明でもあり素粒子物理学の基本概念が根本からゆらぐことになった。 物質は不変であるというギリシア時代からの概念を物理学者は固く信じていたからである。
これ以来、物質を思い通りに創造したり破壊したりできることが認められるようになったのである。
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