宇宙飛行士、油井亀美也さんが宇宙ステーションでのミッションを終えて地球に帰還した。その油井さんが帰還後の会見の中で、生まれ育った長野県川上村での子供の頃を回想して「川上村の自然は私にとって科学の実験室であった」と話していた。川上村は長野県南佐久郡に属し、群馬県、埼玉県、山梨県との県境に位置する。全長
367 km、信濃から越後を経て日本海に至る千曲川(信濃川)の流れはこの村を源流とする。飾辞を排して言えば、山国信濃、長野県でも辺境に位置する寒村である。このような村から宇宙飛行士が誕生することそれ自体が「奇跡」のような出来事である。レタス農家に生まれた油井少年はまさにその曇りのない瞳で川上村に生起する万物事象をつぶさに観察研究したに違いない。そして夜ともなれば暗闇のレタス畑の中でひとり深夜まで望遠鏡で宇宙を眺めて飽きなかったという。そんな息子の姿を見続けてきた父はカザフスタンのバイコヌール宇宙基地からソユーズ宇宙船に搭乗して旅立っていった我が子を見上げながら「息子は宇宙人になってしまった」とつぶやいた。宇宙を夢見た少年は45年の歳月かけ日本人最年長宇宙飛行士としてその夢を実現したのである。
|