その彼とは忘れ得ぬ体験を共有している。 とある日の放課後、廊下の窓にもたれて東の空に浮かんだ山容美しき山を眺めていたときのことであった。どちらからともなく
「あの山に登ろう」 と意気投合。企ての高揚感に押されて 「これから行こう」 となった。 今となれば、山頂までのルートも距離も考えずに昼過ぎ時に山に向かうなどあまりに無謀であったが、不思議とそのときはそんなことは微塵も思い浮かばなかった。
結局。夕闇せまる時刻に頂上に達したものの、下山で道を踏み間違え、さんざん迷走したあげく、遂には落差100mほどの急峻な崖の上に出てしまって進退は窮まってしまった。
しばらく崖の下を覗いていたが、降りられないことはないだろうと月明かりを頼りに下降を始めたものの滑落しないのが不思議なくらいであった。文字どうりの悪戦苦闘を続けて崖下の道に出たのは深夜
0 時を回っていた。安堵の思いと心地よい疲労感を背負ってぼんやりと山裾の村に向かって歩いていると下方から蛍のように群がった懐中電灯の光が押し寄せてきた。なんとそれはふたりに向けられた捜索隊の人々であった。そんなことになっているとはつゆ知らず脳天気に家路に向かっていたのである。そのあと受けた担任教師の諄々たる説諭と親父たちから落ちてきた雷の激しさにはほとほと胆が縮む思いであった。
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