Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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三界の狂人と四生の盲者
 現代人が求めるものとは想像と現実が融合した即身の実現であろう。 それは人間が生きる原点の姿である。 原始人や縄文人に実現していたものである。 人間が進歩という幻想に取り憑かれて以来、想像と現実は乖離するばかりである。 肥大化した想像と巨大化した現実の出現である。 想像は現実に追いつけず、現実もまた想像に追いつけない。
 空海が62歳で高野山に入定(入滅)するに先立つ5年前に書いた 「太始と太終の闇」 と題された偈に登場する 「三界の狂人と四生の盲者」 とはあるいはこのような現代人の姿を述べたものではなかったか。 それはまたニーチェが未来において登場を予言した 「末人」 の姿にも似る。 視点は少しそれるが、フランスの画家ポール・ゴーギャンは死に先立つ5年前に 「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか(※)」 とする生涯の代表作を描いている。
 これらを俯瞰するとき、宗教家にして、芸術家にして、哲学者にして、その語るところには 大きな隔たり は感じられない。
※)「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」
 フランスの画家ポール・ゴーギャンが1897年から1898年にかけて絶海の孤島タヒチで描いた絵画作品。 ゴーギャンが描いた作品の中で最も有名なもののひとつで、現在はボストン美術館に所蔵されている。 この大作の発するメッセージは何なのか? ゴーギャン自身はそれについて明確な説明を残していない。 だがこの作品は見る人それぞれのうちに様々な物語を誘発して私たちの内面の深い部分に常に何かを問いかけてくる。 この作品の強い喚起力は美術という枠組みを超え混迷を深める現代の社会にあってますますその存在感を高めている。

2018.09.10


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