Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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時は流れず(7)〜石の舟
 以下の記載は、2017年6月13日付け、日本経済新聞の文化欄、屋外彫刻「記憶をつなぐ」からの抜粋である。
 宇部市、常盤湖の畔に設置されているこの作品は、彫刻家、井田勝巳の出世作。「第16回現代日本彫刻展」で大賞を受賞した。作家は当時、高校で美術を教えながら夜はアトリエで制作に向き合う生活を送っていた。花崗岩の玉石の上に据えられる六方石の巨大な舟。上部には廃墟の街が彫られ、両側には担ぎ棒のような四角い石柱が嵌められる。あるいはこれは石の棺か。「明日が不安に感じるとき、失ってしまったはずの記憶が、優しく僕を包んでくれる」。作家のこのコメントが示唆するもの ・・・。諸行無常。失われた過去、変容しつつある現在、到来する未来。その連続性と同一性を保証するものは記憶だ。「あの世」は失われた過去の棲家であると同時に我々の未来の棲家でもある。月を「あの世」に見立てるならば、この作品を彼岸(過去・未来)と此岸(現在)を渡す舟(記憶)と見立てたくなる。記憶のかたち。石の舟は湖の畔で永遠の航海を続ける。
 記載は「時は流れず(6)〜夢幻のごとく」(第1060回)で論じた内容に図らずも相似する。失われた過去、変容しつつある現在、到来する未来。その連続性と同一性を保証するものは記憶だとする記述は、まさに「線形時間」そのものであり、論じた「夢幻のごとく」とは、まさに「此岸(現在)と彼岸(過去・未来)を行き来する永遠の石の舟の風景」そのものである。

2017.06.13


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