晩秋の鹿島川畔を訪れたのは 昨年(2011.11月)のことであった。それより1ヶ月あまり早いせいか紅葉の時期は尚早であった。カクネ里の風情が漂う鹿島の部落を過ぎ、上流に少し遡った鹿島川の広い河原の中央に三脚を立ててパノラマ撮影を試みた。あたり一面にころがるおびただしい小石は標高2842m鹿島槍ヶ岳の山襞を削り落として流れ着いたものであろう。 拙著、小説「暁光」(初版平成2年)の終章で、主人公が厳冬の鹿島槍ヶ岳に挑むが、その登攀ルートがこの鹿島川の源流を遡り、大谷原から大冷沢を経て西俣出合に至り、赤岩尾根の稜線から高千穂平を通過して、鹿島槍ヶ岳の双耳峰に到達するものであった。かく思えば、足下の石塊ひとつひとつに、「懐かしき物語」が宿っているようにみえる。
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