絶景を前に呆然と立ちつくしていた私が、我に返って、その瞬間の定着を試みようとカメラをセットするまでには、しばし時の経過を要した。撮影をおえてから、ようようあたりを見回し、立て標識を読むと「望郷の丘」とあった。誰がつけたか、現代では死語のように古めかしくも、また懐かしい命名である。シベリアに抑留された日本兵が、遠く祖国日本を思って涙した時代が甦ってくるようである。名優、鶴田浩二が歌った「異国の丘」が彷彿として思い浮かんだ。戦後、日本は「あの丘を越えて」歩んで来たのである。かくみれば「望郷の丘」からの眺めは、久しぶりに出逢った「故国の風景」でもあった。
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