未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
帽子をのせるだけの頭
プロの棋士が対局中にスマートフォンの将棋アプリを使った使わないで騒動となり、調査の結果、使わなかったということで決着したが、この問題の核心は「将棋アプリを使った使わなかった」ということではなく、むしろ「プロ棋士よりもコンピュータの方が強くなってしまった」という事実にある。
プロの概念とは「誰よりも強い」ということであって、コンピュータがプロ棋士を上回った時点で、もはやプロ棋士は廃業なのである。
同様に名医の診断能力をコンピュータの人工知能が上回った時点で、名医に従う患者はいなくなるであろう。名医の定義が「誰よりも知識が豊富で診断が正確である」ということであればそのようになる。
かかる構図は次々に拡大し、ついには「人間廃業」に至ってしまう。
人類が迎えるかくなる近未来的様相は「ホーキング博士の警告(
第852回
)」、「人間失格(
第968回
)」で描いている。 だが最大の問題はこのような状況を人間自身が自らの頭を使って「どう考えるか」である。 頭は「帽子をのせるためだけにある」のではないのであるから。
※)帽子をのせるだけの頭
とある飲み屋での話である。その屋のママがタクシーで帰るお客さんを送ってきたあとカウンターの中でクスクスと思い出し笑いをしている。怪訝におもって聴いてみると「今のお客さん タクシーに乗り込むとき 頭に気をつけて と声をかけたら “ 帽子をのせるだけの頭ですから ” といったんです ・・」。その紳士然としたウィット(機知)とペーソス(哀感)とアイロニー(皮肉)にはひどく感嘆したことを覚えている。今想えば、それはコンピュータには遠く及ばない人間固有のセンスであったと感慨しきりである。
2017.01.05
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