Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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王陽明に思う(3)〜致良知
 「致良知(良知を致す)」は「心即理」、「知行合一」とならぶ「陽明学の柱」である。 この致良知説によって陽明は朱子を超えたといわれている。
 良知とは学習しなくとも思慮しなくとも誰もがわかっている是非善悪を知る能力のことである。 陽明はかかる良知に目覚めることが主体性確立への第一歩であり、自由への道であるとしたのである。
 そんな良知があるのかと疑義を呈する人には以下の記載を添えて証とする。
 よちよち歩きの子供が今まさに井戸に落ちようとしている。 それを見た瞬間、あなたの心は「はっ」とする。 一匹の猫が走ってきた車の前に飛び出し今まさに轢かれようとしている。 それを見た瞬間、あなたの心は「はっ」とする。 青々とした松の大枝がぽっきり折れて白い幹をさらしている。 それを見た瞬間、あなたの心は「疼痛」を覚える。 この「はっ」とする思いや痛みは瞬時に胸が締め付けられるようにおそってくる。 頭で考えてから、心で思うというようなものではない。 体の中から瞬時に発現する。 それは何故か? それは今井戸に落ちそうな子供があなただからであり、車に轢かれそうな猫があなただからであり、枝の折れた松があなただからである。
 あなたの心は宇宙そのものであって他我なくひとつのものである。 「心即理」、「知行合一」の源泉もまたここから発するのである。
王陽明に思う(1)〜心即理 / 第935回
王陽明に思う(2)〜知行合一 / 第936回

2016.09.01


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