未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
こころの不確定性原理とは
量子世界の不確定性を描いたハイゼンベルクの「不確定性原理」とは、量子の「位置」と「運動量」の2つを同時に高い精度で確定することはできず、片方の精度を上げようとすれば、もう片方の精度が下がってしまうという原理である。
では「不確定なこころの時代〜さまよえる大衆心理(
第883回
)」で述べた「大衆心理の不確定性」はいかに記述されるのであろう。
ハイゼンベルクの「不確定性原理」を等価的に適用すれば、記述は 「大衆が抱く心の位置と運動量の2つを同時に精確に確定することはできない」 となる。 仮に心の位置を「理性」に、心の運動量を「感情」に、還元すれば、記述は 「大衆が抱く理性と感情の2つを同時に精確に確定することはできない」 と変換される。 これを冒頭の不確定性原理の記述全文に適用すれば以下のようになる。
大衆が抱く理性と感情の2つを同時に精確に確定することはできず、理性を確定しようとすれば感情が不確定となり、感情を確定しようとすれば理性が不確定となってしまう。
何のことはない。 それは漱石の 「知に働けば角が立つ、情に棹させば流される ・・ とかく人の世は住みにくい」 という小説「草枕」の冒頭に一致する。 古今、「理」と「情」は互い相反しあって折り合いよく同化することは困難とされてきた。 大衆心理の不確定性とは、言うなれば理と情の不確定性であり、その不確定性が昨今における世相の変化率の増大(エントロピの増大)によって急激に拡大していることを物語っているのである。
2015.07.22
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