南海の孤島(奄美大島)で生涯最高の絵を描くことに命を費やした日本画家、田中一村。その一村が全霊を込めて闘鶏図を描いていたときのことである。その闘鶏図は彼の最高傑作になるはずであった・・ところが、あと一歩というところで、普段は来るはずのない孤庵に来客があった。張りつめた集中の糸はぷつりと切れ、その後再びその闘鶏図を描くことはできなかった。常人の考えでは再び集中力を取り戻して描き続ければいいではないかと考えるであろうが、一村にとってみれば、その闘鶏は生涯二度と出逢うことがない「絶後の闘鶏」であって、その後に続けて描けばいいというようなしろものではなかったのである。時空のめぐり逢いはいつも「一期一会」である。
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