Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知のワンダーランドをゆく〜知的冒険エッセイから
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さまよえる航海
 現代日本社会の価値観はさながら羅針盤を失った難破船のごとく嵐の波間でさまよっている。もっかのところ、教育界や柔道界等々での「体罰問題」が世間の注目をあつめているが、昨日まで「根性」だと叫んでいた世相は今度は「才能」だと叫んでいる。価値観は一挙にして反転し180度の振り幅を呈している。この振り幅は明らかに異常である。
 原因が何かと考えれば、それは日本人個々の価値観が多様化したせいであり、かつまた多数決に基づいた民主精神が熟成したからに他ならないという皮肉な逆説にたどり着く。価値観が多様化し、民主精神が熟成するにしたがって価値観の正誤、善悪の判断基準が多様化し、基準軸が喪失していくのはむしろ自然な流れであろう。基準軸とは羅針盤であり、羅針盤なき航海では、いずれの方向に向かっているかもわからなければ、いづれの地にたどり着くのかもまたわからない。
 では前記した体罰問題における基準軸とは何であろうか ・・?
 それは教育界や柔道界等々が目指す方向(目的)を明確にすることに還元される。しかしてその方向(目的)とは ・・ 立派な子供に育て上げること ・・ 強い選手に育てあげること ・・ 日本一の選手に育てあげること ・・ 世界一の選手に育て上げること ・・・ 等々であろう。目的達成に向けた方法は千差万別、幾千通りもある。従って目的達成のための方法として体罰問題を考えるならば、それは体罰ではない場合もあり、体罰である場合もある。この千差万別、幾千通りもある方法としての体罰の正誤、善悪を「ひとつの価値観」でとらえようとすることには無理があり、およそ不可能であろう。大切なことは「向かうべき方向(目的)を定める」しっかりとした羅針盤を造りあげることである。
 この羅針盤ができあがらなければ「さまよえる航海」から脱することはできないであろうし、それどころか悪くすると座礁してしまう危険さえ潜んでいる。
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