未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知のワンダーランドをゆく〜知的冒険エッセイから
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信玄と謙信(1)〜風林火山
戦国の雄、甲斐の武田信玄は中国古代の兵法書「孫子」から採った「風林火山」を旗印とした。
孫子の記載は ・・ 疾(はや)きこと「風の如く」、徐(しず)かなること「林の如く」、侵(おか)し掠(かす)めること「火の如く」、動かざること「山の如し」 ・・ であり、信玄はそれらの頭文字を合成し「風林火山」としたのである。
信玄は軍を采配するにあたって、この世の「人間」に範を求めたのではなく、この世の「自然」に範を求めたのである。
不確定性に満ち、とらえどころのないこの世を生きるにおいて、処世の羅針盤を、人間に求めるよりは、より高次元な自然の必然に求めることは当然なことではあろうが、この当然なことが並みの人間ではできないところである。
現実(実戦)の万物事象を制する羅針盤として、自然の必然に倣った信玄であってみれば、従軍した士卒は、信玄の一挙手一投足の中に、風を、林を、火を、山を、観たに違いない。
畢竟。信玄の強さとは、一個の人間が発する強さではなく、その人間が、自然に昇華(化身)したところから発する強さであったということができる。
文 /
柳沢 健
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