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ビジョンウィンドウから眺める信濃の四季

窓の向こうに世界が見える〜信州つれづれ紀行から
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八ヶ岳中央高原(2) / 長野県諏訪郡原村
萱草に寄す
 熱暑の夏、八ヶ岳連峰を仰ぎ見る高原。陽光をしっかりと吸収した緑なす萱草のうえをここちよく風が渡り、見まもる森は山は、彼方に続く碧空のもと眠っているかのように動きを失っていた。遠い記憶の彼方から夭折の詩人、立原道造が描いたソナチネの調べが聴こえてくる。
 しかし 僕は かへって来た
 おまへのほとりに 草にかくれた小川よ
 またくりかへして おまへに言ふために
 だがけふだって それはやさしいことなのだ と

 手にさはる 雑草よ さわぐ雲よ
 僕は 身をよこたへる
 もう疲れと 眠りと
 真昼の空の ふかい淵に ・・・・・

 風はどこに? と 僕はたづねた そして 僕の心は? と
 あのような問ひを いまはくりかへしはしないだらう−
 しかし すぎてしまった日の 古い唄のやうに
 うたったらいい 風よ 小川よ ひねもす
 僕のそばで なぜまたここへかへって来た と
 僕の耳に ささやく 甘い切ないしらべで

 (以下、略)

               − 立原道造 「風に寄せて」より −
文・撮影 / 柳沢 健
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