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ビジョンウィンドウから眺める信濃の四季

窓の向こうに世界が見える〜信州つれづれ紀行から
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伊那谷の春 大草城址公園にて / 長野県上伊那郡中川村
麗しき村
 片桐松川の川岸に咲いた桜並木をあとにして、さらに三州街道を北上する。昼の時間はだいぶ過ぎてはいたが、街道沿いにポツンとあるラーメン店でこの日の昼食をとることにして車を駐めた。店内にお客はなく、カウンタの中に好人物そうな店主がこれまたポツンとすわっていた。店主のすぐ前のカウンタに席をとり、注文をすませたところで、この地の桜の見事さを褒めると ・・ こちとら花見どころではなく、この季節はみな桜の木の下で持ち寄った手作り弁当で昼食をとってしまい商売あがったりだ ・・ とのぼやきが返ってきた。閑散たるさまは、そのためかと背後に広がる店内空間をぐるりと見回した。
 ぼやきはさらには、家によりつかない息子の話に転じ ・・ 親父が生きているうちに、田畑は売ってしまって家だけ残してくれればいい ・・ との息子の口上に、憤りとも、あきらめとも、はたまた自嘲ともとれるような笑いを浮かべ、ひとりごとのように、しかしラーメンを作る手は、ひとときもやすめず、話し続けた。
 勘定を払いながら、近くにおすすめの花見スポットはないかとたずねると、店の前に設置された中川村の観光案内看板の前までつれていって説明してくれた。看板には中川村の観光スポットが、こじんまりと、だがてぎわよく描かれていた。説明をする店主の声は、花曇りの空に向かって立ちのぼっていき、やがて溶け入るように消えていった。どうやらこの村は日本の片隅にのこされた「さいごの麗しき村」のように思えてきた。その店主おすすめの桜スポットが、このカットにおさまった大草城址公園である。
文・撮影 / 柳沢 健
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