Linear 信州ベスト紀行セレクション
親海湿原にて(2)
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姫川源流 / 長野県北安曇郡白馬村
太古の時空間
 親海湿原から10分程も歩くと姫川源流に行き着く。 雨降りの天候では人影を見ることはない。 雨がしたたる緑一色の空間に源流は軽やかな水音を響かせていた。
 名水百選に選定されたこの湧水を起点とした姫川は58kmの距離を国道148号線と並行して流れゆきて新潟県糸魚川市の河口で日本海に流入している。
 源流部の河床は細かい礫になっていて冷水中にはアオハナゴケや梅花藻(バイカモ)の群落が見られる。 梅花藻は夏ともなれば可憐な梅の花に似た小さな花を川面に咲かせる。 また水量が増すとセキショウモやエビモなどの沈水植物が繁茂、清流の中には岩魚の泳ぐ姿も見られるという。 春の雪融けを待ってはカラマツ林の根元一面に福寿草が咲き、続いて水芭蕉、キクザキイチゲ、カタクリ、ニリンソウが開花、やがて大きな群落をなすヒメザゼンソウが鮮やかな緑の芽生えを見せるという。 これらはみなこの湧水の為せる業であるとともに、また賜物である。
 遡る 2009年7月、この源流域に隣接する青木湖を訪れた私はそのとき以下のように書いている。
 青木湖は木崎湖、中綱湖とあわせ 「仁科三湖」 と呼ばれ、青木湖は最も北に位置する。 フォッサマグナの上にできたこれらの湖は地質学的に大変貴重なものとされ、日本列島誕生の謎を秘めているといわれている。 中でも青木湖の透明度は高く、水深は58mに達し、流入河川が無いにも関わらず、水位が維持されていることから、湖底にかなりの量の湧水があると考えられている。
 あるいは姫川源流の湧水は地中深くでこの青木湖の湖底とつながっているのかもしれない。 その発想が脳裏に顕れた刹那、隠されていた 「太古の時空間」 が眼前に立ちのぼってくるのをかいま見たような気がした。 そしてまた長野県伊那市長谷村の 「中央構造線 溝口露頭」 から、新潟県糸魚川市の 「糸魚川ジオパーク ヒスイ海岸」 を経て、この地に至ったのは単なる偶然なのではなく、強い共時性に支えられた必然のように思えた。
 つまり、私は訪れたのではなく 「引き寄せられた」 のである。 それはまた数刻前に出逢った親海湿原での 「失われた世界」 の実像でもあった。
2016.06
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