Linear 信州ベスト紀行セレクション
湖沼を巡る(10)
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千鹿頭池 / 長野県松本市神田
花の色はうつりにけりな
 前回訪れたのは2015年5月のことであった。 その時は、「夢のあと」 と題して以下のように書いている。
 土地の人はただ単に 「千鹿頭」 と呼ぶ。 小高い山上には千鹿頭神社が置かれ、麓には千鹿頭池がひかえている。 神社は諏訪大社と同じく神木を建てる御柱大祭が行なわれる。 山上からは松本平を一望のもとに眺めることができる。 高校時代、陸上競技部に所属していた私はここに来て、山上に駆け上がりては、かつまた駆け下り、池の周囲を夕闇迫るまで数えることも忘れるぐらい駆け回っていた。 それは遥か幾星霜も前のことである。 当時は池に何艘ものボートが浮かび、賑わいをみせていたのだが、今はその面影はない。 ただ閑寂としたたたずまいの湖畔が 「夢のあと」 を今に伝えている。
 そして今日もまた、その風情に変わることはないのだが、幾分か、華やかさが失われたように感じるのは、年輪を重ねた私の老いのせいであろうか? ふと 「花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに」 のいにしえの歌が浮かんできた。

2024.04

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