Linear 信州ベスト紀行セレクション
野辺山高原(5)
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八ヶ岳高原ヒュッテ / 長野県南佐久郡南牧村
懐かしき時代の面影
 昨年(2012年)4月に、この地を訪れた私は以下のように書いた。
 このホテルには遡る34年前に来たことがある。 勤めていた会社の仲間と2台の車に分乗して八ヶ岳高原を訪れ、ここでコーヒーを飲んだのである。 その後、歳月を隔てて幾度か訪れようとしたのだが、そのホテルは忽然として姿を消してしまっていてたどり着くことはできなかった。 雄大な八ヶ岳山麓をバックにして、霧の中に 「ぽつんと」 たたずんでいた、瀟洒なホテルの姿は今も鮮明に覚えているのだが、道順はおろか位置さえも 「おぼろとして」 浮かんではこなかった。 1台の車は私が運転していたはずなのだが ・・。
 そのうち、あのホテルは 「あの時にだけ存在していた」 と思うようにして、やがてはたどり着くことをあきらめてしまっていた。 そんなある日、「八ヶ岳高原ヒュッテ」 のことを知った。 形は似ているものの、あの雄大な八ヶ岳山麓をバックに 「ぽつんと」 たたずんでいた瀟洒なホテルの姿とは一致しない。 だがそのホテルを舞台にして 「高原へいらっしゃい」 というテレビドラマが制作されたという添え書きを読んで、あの時、仲間の 1人が 「このホテル、テレビドラマに出たんだよな ・・」 と言っていたことを思い出した。 やはり、このホテルに違いないと思いさだめ、雪解けを待って、この地を目指した。
 近くの八ヶ岳高原ロッジの従業員に場所を教えてもらい、ようやくこのホテルの前に立つことができたが、それでもまだピンとこない。 だがしばらくたたずんでいて、あることに気がついた。 つまり、34年間に渡ってホテルは 「変わらずに」 ここにたたずんでいたのであろうが、ホテルを取り巻く環境は 「変わってしまっている」 という 「あたりまえのこと」 に思いが至ったのである。 ホテルの周りは、今や樹木が高く生い茂り、「自然郷」 と銘打たれた別荘地には、いくつもの建物が造られ、かって私が見たホテルの姿を覆い隠してしまっていたのである。 それらの覆いを一枚一枚はいでいくうち、忽然として、あの雄大な八ヶ岳山麓をバックに 「ぽつんと」 たたずんでいた瀟洒なホテルが霧の中から眼前に甦ってきた。 やはり私は34年前に 「このホテル」 の前に立ったのである。
 そして今年再び訪れたのは、その後、このホテルを舞台にした 「高原へいらっしゃい」 というテレビドラマのことを知るにつれて、若き日の田宮二郎の姿を、そしてドラマを彩った懐かしき時代の面影を、どこかに見つけ出したいという思いにかられてのことであった。
2013.02
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