原発の恐怖を描いたストーリーは寺尾聰が演じる主人公が 「何があったんですか?」 と逃げ惑う大勢の群衆をかきわけていくシーンから始まる。
根岸季衣が演じる子連れの女性が 「あんた知らないの? 原発が爆発したんだ」 と話す。 「原発は安全だ、危険なのは操作のミスで、原発そのものに危険はない、絶対ミスを犯さないから問題はない」
とぬかしたヤツラは許せないと根岸が絶叫する。 生前、黒澤は原発に対して声高に反対を示し 「原発は人間では制御できない性質を持ってるわけで、それを作るっていうのが、そもそも間違いだ」
と断言するとともに 「日本は地震も起こるわけだし、いつ旅客機が墜落してぶつからないとも限らない、もし日本でそういうことが起こったら日本だけの問題じゃない」
と警鐘を鳴らしていた。 まさにその後に起きる福島第1原子力発電所の事故を予知していたかのような話である。 1990年公開というから遡る30年ほども前である。
もしこの映画にこめられた黒澤の警鐘に少しでも耳を傾けていたならば現在の日本の姿も大きく変わっていたのかもしれない。 残されたロケ地の水郷は6月の新緑の中にもの言わず横たわっている。
滔々と流れる清流が当時の息づかいを今に伝えているのがせめてもの慰めである。
|