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未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事

信州つれづれ紀行 / 時空の旅
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鴻の巣 / 長野県上田市富士山
悠久な時の流れの中で
 音楽村の水仙を見たあと、ふとかって訪れた 「鴻の巣」 の奇観を眺めたくなって寄ってみることにした。 その折のことは 第227回 「隠し砦の三悪人(2010年12月)」 で書いている。 それから10年余の時が流れたことになる。 山容の奇観はその当時と少しも変わってはいなかったが、周りの様相は、歳月のためか、それとも直近のコロナ禍のためか、佇む旅莊には人の気配がなく荒廃が進んでいるようであった。 昼下がりの陽に照らされた静寂な空間の中、小鳥のさえずりだけが途切れることなく聞こえてくる。 それを聴きながら崖の麓に立てられた 「鴻の巣の説明看板」 を読みこの地がたどったであろう 「悠久な歴史物語」 に思いを馳せた。
上田市指定文化財 鴻の巣
 今からおよそ2000万年前から500万年前の新生代第三紀中新世という時代、このあたり一帯はフォッサ・マグナと呼ばれる海域で、海底には、溶岩や小石・砂・泥などが積もって厚い地層をつくりました。鴻の巣の岩石は、そのうちの約1300万年前から950万年前にかけて堆積した礫岩と砂岩で 「青木層」 と呼ばれる地層の一部分です。
 鴻の巣の地層は、地殻変動によって長い年月をかけて海底から隆起するときに圧し曲げられ、北側に四十度から六十度ほど傾斜しています。 崖に見られる茶色の横縞模様は、隆起後に地層の境目に浸みこんだ鉄分の色です。 砂岩層には、木の葉の化石も見られます。
 礫はおもにチャートという岩石です。 他に黒色の粘板岩や硬砂岩、白っぽい流紋岩、それに緑色凝灰岩などがあります。 純粋なチャートは白色ですが、不純物が混ざった灰色・緑色・褐色など様々な色のものがあります。
 チャートや粘板岩は、上田小県地方にはない岩石ですので、佐久山地や赤石山脈方面から運ばれたものと考えられます。 また、緑色凝灰岩は、太郎山や独鈷山地域の岩石で、それが礫として入っていることから、当時これらの山の一部は陸地になっていたことがわかります。
 鴻の巣の崖は、幅が東西およそ190m、高さが最高約60mで、堆積岩の崖としては上田市では最大です。 崖のすぐ下を流れる鴻の巣川の浸食によって、地層が削り取られてできたものです。 礫や砂は水を含みやすくもろいので、絶えず少しずつ崩れ落ちています。
 鴻の巣の名称の由来は、昔、雁の一種の鴻(ヒシクイ)か鶴の仲間の鸛(コウノトリ)が営巣した場所と伝えられていますが、確かなことはわかりません。

2021.04


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