花桃の邑をあとにして信州国際音楽村に向かう。水仙の季節は過ぎ何もないのはわかっていたがその何もない音楽村をゆっくり歩きたかったのである。思った通り人影は途絶えていて私のために存在しているかのようであった。初夏に向けて木々は萌葱色に色づいて高台を吹き抜ける5月のそよ風に揺れている。千曲川から浅間山を一望する位置にある野外ステージでは発表会に向けての予行練習であろうか着飾ったご婦人と子供たちがフラダンスを踊っていた。観客は私ひとりではあったが階段状の客席から見物させてもらった。あたりには実に贅沢な時間が流れていた。ふとコマーシャルでみた「午後の紅茶」のワンシーンが想起された。花桃の邑といい、音楽村といい、天啓に恵まれた佳き日であった。こういう日もままあるものである。
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