信州の鎌倉をゆく / 前山寺三重塔 / 長野県上田市前山
曼荼羅の里
参道の坂を登り詰めると真言宗智山派、前山寺の山門に至る。本尊は密教仏である大日如来である。山門をくぐると眼前に未完成の完成の塔と通称される三重塔が独鈷山の急峻な山肌を背に静かにたたずんでいる。国の重要文化財であるこの塔の建立年代は不明、様式からすると室町時代と推定され、三間三重で高さは19.5メートルである。なにゆえに未完成の完成の塔と呼ばれるかの経緯はわからない。だが眺めていて飽きない優美さを秘めている。
鐘楼の横、塔が最も美しく眺められる位置に、托鉢姿の遍照金剛、弘法大師、空海の石像がその塔と独鈷山を見上げるようにたたずんでいる。空海が密教の理想郷として選んだ高野山は周囲の山々が立体曼荼羅を成しているという。だが、812年、弘法大師空海が護摩修行の霊場として開創したといわれるこの地もまた充分に曼荼羅世界をこの世に体現しているように私にはみえる。
参道の入り口に駐めてあった車に乗ろうとして振り向いた先には塩田平が晩秋の霞の中に広がっていた。思い起こせば戦国時代には、この地で甲斐の武田信玄と北信濃の村上義清との間で、後に「上田原の戦い」と呼ばれる激しい戦いがあった。家督相続以来、信濃制圧を目指して連勝を続けていた信玄はこの合戦で重臣の多くを失う初めての大敗を喫したのである。戦国武者が駆け抜けた塩田平でもある。
2015.11
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