Linear ベストエッセイセレクション
宇宙モデルの相似性
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相対性と相補性の狭間〜対立か融合か
 「Pairpole 宇宙モデル」 は宇宙の内蔵秩序である 「対称性」 から導かれた 「相対性」 と 「相補性」 で構成された 「宇宙モデル」 である。
 相対性とは、対極としての Pairpole が 「互いに比較し合う」 ことを意味し、相補性とは、対極としての Pairpole が 「互いに補い合う」 ことを意味する。 現代物理学の基礎を成す 「アインシュタインの相対性理論」 は Pairpole の相対性に基づいて構成され、「ボーアの量子論」 は Pairpole の相補性に基づいて構成されている。 この2つの理論を統合した 「統一理論」 の完成が標榜されて久しいが、いまだ実現されていない。 もっかのところ統一理論に最も近いとされている理論が 「超ひも理論」 である。 超ひも理論では、10次元空間の中のひもの振動が宇宙のすべての物質とエネルギ、はたまた空間と時間まで生み出すとされている。 確かに超ひも理論は相対論と量子論を数学的には矛盾なく説明してくれるが、現実空間の中で実験できるものでもなく、そもそも10次元のミクロのひもの振動が 「何を意味している」 のかも不明である。
 目指す解は 「相対性と相補性の狭間」 に拓かれているはずである。 問いの構図を還元すれば、宇宙は対極である Pairpole の 「相対的対立」 にあるのか、それとも対極である Pairpole の 「相補的融合」 にあるのかということに集約される。
 
金剛界と胎蔵界の狭間〜秘密マンダラの宇宙
 「Pairpole 宇宙モデル」 は日本で真言密教を創始した弘法大師空海が唐から持ち帰った密教世界を描いた 「秘密マンダラの宇宙」 に相似する。
 マンダラには 「金剛界マンダラ」 と 「胎蔵界マンダラ」 の2つがあり、それを一体化したものが 「両界マンダラ」 である。 金剛界マンダラは 9 区画 に区切られた空間に、仏国土を守護する様々な仏たちが 「スクエア状」 に配された世界を図案化したものであり、胎蔵界マンダラは 「宇宙仏」 として密教世界を司る大日如来を中心にして、それを守護する様々な仏たちが 「サークル状」 に配された世界を図案化したものである。
 図 1 は 「両会マンダラ」、図 2 は Pairpole 宇宙 を図案化した 「Pairpole design 1」、図 3 はその図案化をさらに還元した 「Pairpole design 2」 である。
 図 1 の両会マンダラにおける 「金剛界マンダラ」 は世界(時空間)を連ねた 「広さの世界」 をあらわし、「胎蔵界マンダラ」 は世界を重ねた 「深さの世界」 をあらわしている。 属性で言えば、金剛界マンダラは 「理性的な男の世界」 であり、胎蔵界マンダラは 「感情的な女の世界」 である。
 図 2、図 3 の Pairpole design における 「Analog universe」 は宇宙(時空間)を時間で 「積分した世界」 であり、Pairpole 宇宙モデル では 「連続宇宙」 と呼んでいる。 他方、「Digital universe」 は宇宙(時空間)を時間で 「微分した世界」 であり、Pairpole 宇宙モデル では 「刹那宇宙」 と呼んでいる。 また 「シンプルな宇宙モデル」 では連続宇宙を 「線形時間で構成」 された 「静的宇宙」 と呼び、刹那宇宙を 「現在だけで構成」 された 「動的宇宙」 と呼んでいる。
 これらの全てを説明することは筆舌を究めるため、ここでは概要にとどめる。 ともあれ、「Pairpole 宇宙モデル」 と空海の真言密教が説く 「秘密マンダラの宇宙」 が極めて 「相似している」 ことをご理解いただければそれをもって 了 である。
(※) 「Pairpole design」 はサイエンスアートとして意匠化され、情報化時代の 「ベーシックコンセプトデザイン」 として運用されている。
 
細部と全体の狭間〜ホロニックな宇宙
 「Pairpole 宇宙モデル」 は大乗仏教における中心経典である 「華厳経」 が描く 「ホロニックな宇宙」 に相似する。
 「一はすなわち一切であり、一切はすなわち一である」 とする華厳経の教義は、「細部は全体、全体は細部」 という 「フラクタル宇宙」 に帰着する。 フラクタルとは、フランスの数学者、ブノワ・マンデルブロが導入した幾何学概念であり、「全体の形状と部分の形状が自己相似になっている」 というものである。 フラクタルの幾何学概念は、宇宙は入れ子状に重層的に階層を成し、「万物は相互にその自己の中に一切の他者を含み、相互に関係しあい、円融無礙に旋回しあっている」 とする宇宙構造を提示する。
 またフラクタルの幾何学概念には、ホロニックな秩序が内蔵されている。 ホロニックとは 「どんな部分にも全体の動向がふくまれているような関係性で語られるひとつの 「部分=全体系」 のことである。 ホロニックを構成する部分には全体系がもつパフォーマンスが入れ子状に内蔵されているとともに、相互に連携している。 我々は通常、部分と全体の応変を同時に見ることはできないが、ホロニックな関係性においては同時にとらえることが可能である。
(※) この 「ホロニックな特性」 を使って開発されたた 「ものづくりのための知的ツールシステム」 は研究開発のための課題解決に向けた思考支援システムとして運用されている。
 理論物理学者、デビット・ボームが説く 「目に見えるすべての明在系には、宇宙の一切を統御する暗在系(宇宙の内蔵秩序)が含まれている」 とする宇宙構造は、「ホロニック」 な内蔵秩序の存在を語っている。 また華厳経の 「存在するものは、すべて心の表れである」 とする教えは、宇宙論物理学者、ジョン・アーチボルト・ウィーラーが言う 「宇宙とは現象である」 とする説に等価的同意である。
 かくして、私は構築した 「Pairpole宇宙モデルの帰結」 を以下のように結んだ。
 環状連鎖ウェーブコイルは群を成し宇宙空間に散在している。 この風景はまた池の水を顕微鏡で覗いた時に見える風景でもある。 大宇宙と小宇宙の区別はどこにもなく、細部は全体であり、全体は細部である。 つまり、宇宙には大きさはなく、構造のみが存在するのである。 我々自身が一杯のコップの水の中の宇宙に存在しているのか、池の水の中の宇宙に存在しているのか、はたまた大海の水の中の宇宙に存在しているのかという 「フラクタルの階層」 を特定することは永遠に不可能である。 あれよりこれが大きいとか、小さいとか、遠いとか、近いとかのサイズの概念は我々人間が生活上の必要性から創った概念であり宇宙の概念としては適用できない。 この人間が創ったサイズの概念が 「宇宙の果て問題」 を発生させたのである。 つまり、「宇宙の果てはどうなっているのか?」 という問いである。 この問いを解いた人は未だいない。 それは大きさという概念をもって考えるからであって、この概念を捨て去れば問題は難なく解ける。 つまり、宇宙とは 「仕組み」 という概念であり、「大きさ」 という概念ではない。 大きさという概念がなきところに宇宙の果という概念はもとから存在しないのである。 この仕組みこそが宇宙の構造でありメカニズムである。 この宇宙の仕組みがなぜにこのようなのかは、もはや神のみぞ知るところであろう。
 
いまだ漠として語ること能はず
 第1958回 「相対性と相補性の狭間」、第1959回 「金剛界と胎蔵界の狭間」、第1960回 「細部と全体の狭間」 で述べてきた 「Pairpole 宇宙モデル」 との相似性は、その構築にあたって事前に想定されたものではなく、結果として現れたものである。
 宇宙は必然なのか? それとも偶然なのか? 宇宙は唯識的存在なのか? それとも唯物的存在なのか? いまだ漠として語ることができない。

2024.12.24


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