火野正平の唄う 「ごめんね」 は絶品である。 なぜってそれは火野正平が辿った波乱の恋物語そのものであって、出逢った哀歓が
「かつ浮かんでは かつ沈み かつ沈んでは かつ浮かぶ 浮き草」 のように漂っているからに他ならない。 かっては 「女泣かせの火野正平」
と浮き名を流した元祖プレイボーイも自称 「いい人」 に変身して今や御歳(おんとし)、69歳である。 寄る年波に逆らった、自転車で全国を旅する
「にっぽん縦断こころ旅」 では、お茶の間の人気者となって、今もなお老骨にむち打って 「球形の荒野」 を走り回っている。 それはまた、行く先々、津々浦々に散在する若き日の恋人たちにむかって
「ごめんね」 を行脚する 「お遍路さん」 のようでもある。 だがかくも 「長き不在」 を詫びる男も世間にそうざらにいるものではない。
やはり愛される男はどこかが違うのである。 とつとつと唄う 「ごめんね」 が胸を打つのは当然といえば当然の話である。
|