Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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かくも長き不在〜神々の行方
 2026年2月4日、長野県の諏訪湖で 「御神渡り(おみわたり)」 が出現しない 「明けの海(あけのうみ)」 が八剱神社によって宣言された。 2019年から 8季連続 の未出現で、それは室町時代(1507〜1514年)の記録に並ぶ 「史上最長記録」 とのことである。
 晴天の湖岸道路を通過した私が車窓から眺めた 「御神渡り」 は直近最後に観測された2018年のことであった。 その時はかくも長きに渡る 「神々の不在」 を予期することなどできなかった。 湖面につけられた「湖西の上社から湖東の下社に向かう」 あるいは 「湖東の下社から湖西の上社に向かう」 神々の足跡は今も網膜にのこっている。
 その後、2020.年1月には、訪れた諏訪湖畔の赤砂崎公園で 「暖冬の湖面」 と題して 「明けの海」 の景色を以下のように書いている。 (信州つれづれ紀行、第647回
 温暖な夏は温暖な秋に引き継がれ、ついには温暖な冬が到来した。 いつもなら結氷した湖面を寒風が吹き抜け神事の 「御神渡り」 がいつ訪れるかと話題になる頃ではあるのだが、まるで小春日和のような風光が一面に漂っている。 地球温暖化の兆候は 「世界の片隅」 に位置する湖にも紛うことなく垣間見せている。
 さらにその後、2021年2月には、本稿、第1486回に 「御神渡りが語るもの」 と題して以下のように書いている。
 日本列島の中央に位置する信州最大の湖 「諏訪湖」。 結氷した氷が山脈状に盛り上がる 「御神渡り」 で知られている。 その御神渡りの記録は室町時代の1443年から 578年間 に渡り途切れることなく継続されている。 御神渡りができなかった年も 「明けの海」 として記録してきたため、凍った年、凍らなかった年がいつかが分かる。 かつては時の幕府に報告され、現在は宮内庁と気象庁にその結果が伝わる。 その御神渡りの認定は諏訪湖岸にある八剱神社によって行われ、宮司と氏子総代たちは小寒の1月5日から毎朝欠かさず諏訪湖を訪れ観察を続ける。 そして今、その 「578年間の観察記録」 に世界の気象学者が大きな関心を寄せているという。 科学が発展した時代において、観察を記した古文書が気象変動の解明に貢献することなど古人は想像だにしなかったことであろう。 人間の自然観察力もすてたものではない証である。 しかして先日(2月3日)、今季は御神渡りが現れない 「明けの海」 が宣言された。 明けの海は 3季連続 で記録が残る1443年以降 74回目、その内、平成以降だけで24回目となる。 地球温暖化は着実に進んでいるようである。 そのことを地球の片隅にある諏訪湖の風物史が語ってくれている。
 はたして、諏訪湖に降臨した神々はいったい何処へ行ってしまったのか? それは経済発展のためには温暖化やむなしを続ける 「人類の怠慢」 によるものなのか? それとも 「神々の気まぐれ」 によるものなのか? ひろがる 「明けの海」 は何も語ってはくれない。 今はただ 「失われた風景」 の回帰を願うのみである。

2026.02.24


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