Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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生き方の美学〜恥じることなき人生
 自らを顧みて 「恥じることなき人生」 を生きてきたのであろうか? しかして、「生き方の美学」 とはいかなるものであろうか? 以下の記載は 第790回 「金メダルは私が決める」 からの抜粋である。
 日本の深夜を熱狂させたソチ冬季オリンピックが終了した。 今回のオリンピックでは女子フィギュアスケートの浅田真央選手に代表されるように、メダルを取らなくても 「世界から賞賛される」 というかってなかった現象が生じた。 フリースタイルスキー女子モーグルの上村愛子選手もまたしかりであった。 競技審判の採点をそっちのけにして、彼女たちが演じた 「感動のドラマ」 に世界は涙したのである。
 この現象をもたらした最大の要因は 「情報化の波」 であろう。 情報化社会が進展した今、観衆はさまざまな情報機器を使って 「微に入り細に入り」 あらゆる情報の収集が可能である。 観衆はそれらの情報の下に、選手の 「一挙手一投足」 を見ているのである。 言うなれば 「競技審判や解説者に言われるまでもなく」 その競技の優劣を判定できる判断基準を備えているのである。 その能力は 「なまじの審判員や解説者を凌駕する」 までに至っている。 つまり、「金メダルは私が決めます」 というわけである。 メダルにとどかなかった上村選手は 「最後に自分が思い描いていた最高の滑りができました」 と自らに感動し、浅田選手は 「長い歳月をかけて目指してきた最高のプログラムを最高の演技で完成することができました」 と自らに感泣した。 観衆は自らに向けたその不撓不屈の勇気と比類なき純心に 「金メダルを捧げた」 のである。
 かって 「プロジェクトX」 というNHKの人気番組があった。 その中で登場人物が思わず吐露した言葉の数々が 「名言集」 としてのこっている。 以下はその抜粋である。
 「すべての開発は感動から始まる」、「美しいものを作れ、そうすれば解決する」、「挑戦者に無理という言葉はない」、「男は一生に一度でいいから、子孫に自慢できるような仕事をすべきである」、「いつかはみな死ぬ、今は苦しくても死ぬときに誰も出来ないことをやったと思えたらそれでいいじゃないか」 ・・。 そこには今回のオリンピックで活躍した選手たちの心情と相通じるものがある。 本当の 「レジェンド(伝説)」 とは、あるいは自らが自らに与える賞賛なのかもしれない。 (2014.02.27)
 そして今、世界は生き方の美学を喪失した 「恥じることを忘れた人々」 で溢れかえっている。 ここまで書いて、ふと 「傷だらけの人生」 のあのセリフが浮かんできた。 以下は 第932回 「傷だらけの人生」からの抜粋である。
 「傷だらけの人生」 がリリースされたのは、今を遡る46年前、1970年のことである。 マイクにハンカチを添え、耳に手を当てて唄う鶴田浩二の姿が目に浮かんでくる。 「古い人間」 が 「今の世相」 を嘆く詩は、鶴田をイメージして藤田まさとが書き下ろし、吉田正が曲をつけたものである。
 古い奴だとお思いでしょうが、古い奴こそ新しいものを欲しがるもんでございます。 どこに新しいものがございましょう。 生れた土地は荒れ放題、今の世の中、右も左も真っ暗闇じゃござんせんか。
何から何まで 真っ暗闇よ
筋の通らぬ ことばかり
右を向いても 左を見ても
馬鹿と阿呆の 絡み合い
どこに男の 夢がある
 当時、NHKから 「公共放送で流すことは好ましくない曲」 とされたことに激怒した鶴田は、以後NHKへの番組出演を 「男たちの旅路」 に出演するまでの約6年間に渡って拒否し続けたという。 蛇足ながら付け加えれば 「傷だらけの人生」 はまた赤塚不二夫のギャグ漫画 「天才バカボン」 に登場するバカボンのパパの愛唱歌でもある。 かく想起すれば、現代社会世相の様相は、当時にして、すでに世に発現していたことになる。 だがかくなる時代を風靡した鶴田浩二も、藤田まさとも、吉田正も、赤塚不二夫も ・・ ともに今は亡い。 暗澹たる現実のみがこの現世(うつしよ)にのこされたのである。 (2016.05.10)
 「恥じることなき人生の美学」 の優劣など、他者があれこれ論評したり裁定するものではない。 「自らに捧げる金メダル」 を決める者は 「自分自らであって」 それ以外の何ものでもないのだ。 だが現実はどうであろう? 自らを顧みることなどそっちのけにして、どうでもいいような枝葉末節の誹謗中傷にあたら貴重な時間を費やしている。 これでは 「愛する人の瞳に俺の人生は美しいか?」 などと問うべきもないではないか。
以下は鶴田浩二についての 「つれづれの記」 である。 併せて拝読願えれば幸いである。
信州つれづれ紀行より / 「望郷の丘
知的冒険エッセイより / 「同期の桜

2025.10.05


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