Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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人の心を知るとは(2)〜予定調和
 私が眺めるこの現実世界の風景は、私の位置から眺められる 「私の相対的宇宙(個別世界)」 であり、貴方が眺めるこの現実世界の風景は、貴方の位置から眺められる 「貴方の相対的宇宙(個別世界)」 である。 10人の人間がいれば、10の位置から眺められる別々の10の相対的宇宙(個別世界)が存在する。 だが、我々は日頃そのような相対的宇宙の感覚をもつことはなく、「唯一の絶対的宇宙」 に存在していると感じている。 では貴方の宇宙と私の宇宙で構成された宇宙構造が 「何ら破綻することなく」 無事に存在できるのは何ゆえなのか?
 ドイツの哲学者、ライプニッツは、このような相対的宇宙の対応関係を 「予定調和」 という言葉で表現した。 常識的に考えれば 「同じ現実世界(絶対的宇宙)を見ているから、それぞれが見る個別世界(相対的宇宙)のイメージに対応関係がある」 となるが、ライプニッツは逆に 「それぞれが見る個別世界(相対的宇宙)のイメージに対応関係があるから、同じ現実世界(絶対的宇宙)を見るのだ」 と考えたのである。
 ではどうしてこのような個別世界(相対的宇宙)のイメージの対応関係があるのかの疑問に答えて、ライプニッツは 「神」 に帰着させて 「予定調和」 と呼んだのである。 ライプニッツの視点で宇宙を述べると次のようになる。
我々は別々の相対的宇宙を眺望するが、予定調和により同じ絶対的宇宙を体験する
 ここで想到するのは、ライプニッツの 「予定調和」 の概念が、心理学的な意識世界を語ったフロイトやユングの言う 「潜在意識」 や 「集団的無意識」 という概念に非常に近い関係をもっていることである。 さらに物理学者、デビット・ボームの言う 「暗在系の内蔵秩序」、東洋の哲学者、老子、荘子の言う 「道」、孔子、孟子の言う 「天」、王陽明の言う 「心即理」 といった概念にも近い。 これらの概念の根底には、我々が 「何かを共有している」 という直観が横たわっている。 各々の概念の違いは単に同じものを視点を変えて別々の言葉で語っているに過ぎないのである。

2025.06.17


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