Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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忘れがたき時代の風景
 本エッセイの掲載も遂に 2000回 に達した。 ちなみに2017年1月25日に書いた 第1000回 「予測不能な時代」 を抜粋すると以下のようであった。

 予測不能の世界をどう生きるか? 現代社会が問われている課題である。 その予測不能性は米国のトランプ大統領の登場で加速度的に拡大している。 世界は今あらゆる算段を講じてその予測不能性の回避にやっきになっている。 それは日本も同様で、先日までは自信に満ちていた安倍首相も最近は顔色がすぐれない。
 予測不能性とは論理的思考をもってして予測できないことを意味している。 単純に言えば 「論理が正常に機能しない」 ということである。 したがってトランプ大統領が打ち出す予測不能な政策には論理的思考をもっては対処できない。
 株式トレードでは勝者が5%、敗者が95%と言われる。 これが意味するものは95%のトレーダーがよしとする売買手法が間違いで、5%のトレーダーがよしとする売買手法が正しいという事実である。 おそらく95%のトレーダーがよしとする売買手法は常識的な論理的根拠に基づいたものであろうから、5%のトレーダーがよしとする売買手法は逆に常識から逸脱した非論理的根拠に基づいたものとならざるをえない。 ここから導かれる結論は株式トレードでは常識を逸脱した非論理的手法でなければ勝利者にはなれないという受け入れがたい現実である。
 トランプ大統領の政治手法もまた株式トレードでの売買手法と同じ構図をもっている。 その政治手法は95%の人々がよしとする常識的な論理的根拠に基づいたものではなく、常識を逸脱した非論理的根拠に基づいたものであることを充分に念頭において対処しなければその術中に陥ってしまう。 時代は今、論理性に基づいた予測可能な社会から非論理性に基づいた予測不能な社会へと移行を試みているのである。

 それから8年余りが経過した現在。 「予測不能な時代」 はさらに増進して止まる兆しはみえない。 再登場したトランプ大統領のパワーアップされた非論理的政策は、世界を席巻、その混乱は拡散するばかりである。
 また2017年1月31日に書いた 第1002回 「満天の星〜時空の旅人」 では、これと相対する片隅の世界を描いている。 抜粋すると以下のようである。

 本エッセイを 「1000回までは書いてくれ」 と言っていた彼は、その 1000回 を祝して宴を催してくれた。 宴と言っても仕事が終わったあといつものレストランで食事をし、行きつけの喫茶店でコーヒーを飲むだけのささやかなものであったが、私にとっては極上の三つ星であった。 だが本当の宴はその後に訪れた。
 帰り道、私が 「安曇野天文台」 と呼んでいる彼が長年の工夫をこらして完成させた天体観測ドームに寄って 「満天の星」 を観せてくれたのである。
 若き日、彼は貨物船の通信士として 7つの海 を渡って地球を周回していた。 カラオケで 「冬のリビエラ」 を唄うのはそのせいかもしれない。 NHK紅白歌合戦に向けて南太平洋の洋上から 「紅組がんばれ 白組がんばれ」 を打電、司会者がその電文を読み上げたことは語りぐさである。
 船を下りてからというもの ・・ ある韓国出張から戻る機内ではフィギュアスケートの浅田真央選手と隣り合わせとなり 「浅田さんですよね サインしてくれますか」 とパスポートを差し出すと 「こんなところにサインしていいんですか」 と言いながらも笑ってサインをしてくれたこと ・・ 色あせた自宅壁面の塗装を思い立つや、ネットでさがした工事用の足場を引き取りに軽トラックを駆って深夜の高速道を大阪まで往復、塗装作業には1年以上を費やし下塗り上塗りを繰り返して完璧に仕上げたこと ・・ 等々。 語り出すと逸話にことかかない。 だが彼はエレクトロニクス技術を扱うれっきとした会社の社長なのである。
 そんな彼がいつどこで天体観測ドームを作ってしまうほどに星空の彼方に憧れを抱いたのかは、多くを語らない彼からは知るよしもない。 あるいはそれは洋上の貨物船の甲板から見あげた満天の星空であったのか ・・ それとも単調な塗装作業を繰り返した蜩が鳴く夏日の足場でのことであったのか ・・?
 とまれ観測ドームは2層構造を成し、上層には望遠鏡とその制御装置が収まり、下層には観測指示やそのデータ処理を行うコンピュータ等が収まっている。上層に登ってドームを開くとそこには寒気漂う冬空に瞬く満天の星空が広がっていた。 観測ドームの周囲は漆黒の闇と静寂で包まれている。 上空を渡る雲が若干あるものの観測にはまあまあの状況だという。 星空には素人の私のために観測地点をアンドロメダ銀河とオリオン大星雲に向けてくれた。
 やがて上層ドーム内に置かれたモニター画面に望遠鏡に取り付けられた高精細CCDカメラがとらえたアンドロメダ銀河とオリオン大星雲が現れた。 写真では見てはいたが直に見るのは初めてであった。 何千万光年と離れたその宇宙を眺めているうちにどこからともなく 「生物としての自分とはいったい何ものなのか」 という不可思議な感懐が湧いてきた。 あるいは彼もまたひとり真夜中の観測ドームで星空の彼方を眺めながら 「この宇宙に人類が存在する奇蹟の意味」 を探し求めているのではあるまいかとふと思った。 自らを語ることなき 「時空の旅人」 がここにいる。

 織りなされた彼との長き交友は 「馬鹿話が紡いだ物語」 の中で 「忘れがたき時代の風景」 として描かれている。 併せてお読みいただければ幸いである。

2025.05.21


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