Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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科学がもたらす最悪の宿痾
 科学が人類にもたらす宿痾については、第619回 「科学的合理主義の終着点」 で論考している。 その中で、科学万能の喧噪が出発した 250年前 にして、かかる科学的合理主義の行き着く先を、まれにみる慧眼をもって予見、大きな危惧とともに警鐘を鳴らしたドイツの文豪、ゲーテ(1749〜1832年)について書いている。 以下はその抜粋である。
 いかなる警鐘をもってしても技術と科学の結合による世界の進歩的な改造が阻止し難いことを知っていた彼は、そのことを最後の小説 「遍歴時代」 の中で、「増大する機械文明が私を悩ませ不安にします、それは雷雨のようにおもむろに近づいて来ます、でもそれはすでに方向を定めました、やがて到来して襲いかかることでありましょう」 と憂慮とともに語っている。 また友人への手紙の中では、「富と速さは、世界が称賛し、誰しもが目指しているものです、鉄道、急行郵便馬車、蒸気船、そして交通のありとあらゆる軽妙な手段は、開花した世界が能力以上の力を出し、不必要なまでに自己を啓発し、そのためかえって凡庸さに陥るために求めているものであります、そもそも現在は、すぐれた頭脳、理解の早い実用的な人間のための世紀であり、彼らは、たとえみずからは最高度の天分を有さずとも、ある程度の器用さを身につけているだけで衆に抜きんでるものと思っているのです」 と書いている。
 その後、ゲーテの思想を研究したオーストリア生まれの文芸評論家、エーリヒ・ヘラーは、科学的合理主義の行き着く先を 「技術的進歩とは、地獄をもっと快適な居住空間にしようとする絶望的な試み以外のほとんど何物でもありません」 と簡潔にして直裁にまとめている。
 今、眼前にする現代社会の様相は、250年前に、ゲーテが危惧した予見が紛れもなく的中したと言わざるを得ない。 原子核操作、遺伝子操作、人工知能の開発 ・・ 等々。 人知を超えたこれらの技術的進歩は、まさに 「地獄をもっと快適な居住空間にしようとする絶望的な試み以外の何物でもない」 ことを示している。 だがそのことに気づいている人はいまだ驚くほどに少ない。 悲憤慷慨やるかたない。

2024.10.13


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